プロローグ

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アルテニスは恍惚と微笑んでいた。それは強者が見せる侮蔑を含んだささやかな表情。 敵国であるセシリアの新しい王。森の騎士であるそれが自身の悩みを解決できるものだと瞬時に理解して ―――王は愉快で堪らない。 騎士が辿る行末など彼には手に取るようにわかっている。 つまりこれは余興だ。 彼の森の国を我が物とするためのショーに過ぎない。 今回はその足掛かりが魔王だった。ただそれだけなのだ。 魔王―――それはここ最近になって現れた灰郷の地の王。 灰色の村、森を隔てた先にある広大な火山の麓。 その荒れ果てた大地に君臨する彼の王は常識というものをことごとく打ち砕いていた。 この国の王、アルテニスの命にて魔王を討伐せんとする王国戦士。 決闘を挑む勇者や軍勢を引き連れる狩人。村を襲った盗賊らも魔王の前では等しく平等。“死“という結果でのみ彼らの命運は守られていた。 破滅を齎す魔の剣によって。 アルテニスは思う。 この地、この大地に複数の王など要りはしない。 何も知らずこの地をのさぼり尽くす他国の王、ましてや悔恨の果てに閉塞する魔の王など既に論外だった。 ククッ、と王は微笑する。 森の王と魔の王。二人の待ち受ける命運をそっと思い浮かべながら。 けれど―――その口元も、その眼光でさえもアルテニスは何一つ笑ってなどいなかった。
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