第参章「愛しく哀しい地」

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「黙ってて、ごめんなさい」 苦笑いを浮かべ話すリリーの日本語は、とても流暢な物だった。 「実は、私の父が大の日本好きなの。幼い頃から日本語を教えられてて…」 「どうして隠してたんですか?」 戸塚が当たり前の様な疑問をぶつける。 「…変に警戒されるのも嫌でしょ?」 「まあ、別に良いけどな…。これからは日本語で話してくれ」 英語と日本語を使い分けるのが面倒なのか、投げやりにリリーへと頼み込んだ。 リリーが頷き、漸く室内への扉を開く。 三十畳ほどの部屋には、所狭しとデスクとパソコンが設置されている。 「これから永宮くんには、出来るだけ此処に居てもらいます。必要なら、睡眠は別室を用意しますが…」 「いや、此処で大丈夫です。…眠り心地の良さそうなソファーもありますし」 部屋の隅に置かれた、焦げ茶色のソファーを指差し言う。 確かに座り心地は良さそうだが、眠るのに適しているのだろうか? 戸塚は疑問から苦笑いを浮かべながらも、二つ返事で了承した。
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