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彼女の深い瞳が俺を捉え、
俺の瞳は彼女に捉えられる。
時間にして数秒間。
でも、その一瞬ですら
俺にとって永遠のように感じた。
なんだか……
このまま、俺は彼女の瞳に飲み込まれてしまいそうで
よく分からない焦燥感に駆られている自分がいた。
でも
俺は彼女の瞳から逃げられない。
彼女も俺を逃がさない。
彼女は
俺の全てを見透かしている気がしてならない。
彼女は
得体がしれない。
でも、そんな彼女を
俺は
ずっと前から
知っているような気がした。
キーンコーンカーンコーン……と
学校の昼休みを告げるチャイムが
俺の意識を戻した。
そんなハッとしたばかりの俺に、
彼女は目を細めて微笑みかける。
「さあ、戻りましょうか」
「あ、ああ……そうですね」
俺はボッーとしながらも、屋上から下へ降りる為の扉へ向かう。
彼女は
チャイムが鳴ったのにも関わらず、
屋上を離れようとしない。
「先輩?」
「……私はもう少し
『ここ』にいる。
また後で
『戻る』よ」
何故か……彼女が言う『ここ』や『戻る』が
屋上や校内を差しているとは思えなかった。
彼女は……不思議な人だ。
まるで異世界から来た姫様のようで、
とても同じ学校の人間と思えなかった。
……そんな俺の中のイメージが、彼女の一言一言を深く受け止めてしまうのだろう。
……いよいよ俺はヤバいかもしれない。
「それじゃあ、先輩。お先に失礼します」
スッと一礼して俺は去ろうとしたが
ふと気づく。
「あの……先輩、
先輩の名前は?」
屋上の中心に立つ彼女は
何故か、少し考えるような素振りみせ
何か納得したように
柔らかく微笑んだ。
「私の名前は
未来(みく)
未来と書いて
みく、よ」
未来(みく)……先輩か。
きっと苗字ではなく名前だろうな。
「苗字は?」
「それぐらい自分で調べてよ、龍希」
何故か彼女は挑発的に言う。
名前を言うのも少し間があったし、なんか変な感じだったが
後で仙道先輩にでも聞けばわかるだろうと思い、それ以上は俺は問い詰めなかった。
「わかりました、それじゃあ」
彼女はクスリと笑い別れの言葉を口にする。
「ええ、……『また』」
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