物語の通過点

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フッと彼女は表情を消して急に立ち上がって どこまでも広がる空を見つめて……突飛なことを言い始めた。 「ねぇ、龍希。 君は 【運命】を信じる?」 俺は座っているので、立っている彼女の表情は見えない。 俺は彼女の発言に怪訝な顔をしていたと思う。 ……これは宗教か何かの勧誘だろうか? 「……いや、 信じない……」 とりあえず俺はそう答えておくことにした。 「何故?」 俺は立ち上がって彼女の顔を見る。 彼女は口元に笑みを浮かべていたが 瞳は笑っていなかった。 「だって、 【運命】なんてあったら 面白くないですよ」 「そう……なら、こういうのはどう? 仮に 【運命】は在るものとします。 その【運命】を定めるのは 誰、或いは何でしょう?」 ……彼女は一体何を言っているのだろう? 「【運命】てのがあるとしたら それを定めるのは人ですよ。 神とか悪魔とか得体のしれないものでは断じてない。 一人一人がそれぞれの運命を勝手に好きなように解釈して 好きなように変容させるんです」 「龍希は運命とかそういうの嫌いなんだね」 当たり前だ。 運命とかなんとかあったら アスカを運命が死なせたとでも言うのか? そんな訳ある訳無い。 アスカの死は定められたものなんかじゃない。 それを運命で片付けていい筈がない。 「しかし龍希の理屈でいくと 貴方も 私も 運命を操れるみたいだね」 「そうですね」 運命なんか無いがな。 「一つは全部と同じ、全部もまたそれは一つと同じ。 一は全ということ。 なら、龍希。 私たちの【運命】もまた、 一つ一つに一つ一つの運命がある必要は無い。 全ての人の運命もまた 一つの運命で充分、事足りる」 彼女の発言の意味がさっぱりわからない。 もしかして電波系なのかもしれない。 俺は首をかしげるだけだ。 「つまりね、 人類の言う【運命】を定めるのは ただ一人 ってこと」 「へ……?」 なんじゃそりゃ? 「この世界もまた、誰か一人の意思、意図でもって 動いているということ。 人類はその誰か一人が定めた運命にそって動いている……としたら?」 彼女は妖艶に微笑えんで見せた。 いや、その理屈はおかしい。 ってか突飛すぎる。
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