第一章「穴る」

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 珍歩大学。知名度・偏差値共に日本においてトップであることは言うまでもない。そこで教鞭を執るカリペロ先生。どんな人なんだろう。私は不安な面持ちで、湯原学と表札が出ている部屋の前で立ち止まっていた。  いや、ビビっていても仕方がない。私は刑事なのだ。やるべきことはやらなくては。  意を決してノックしてみる。…コンコン…  「すみません、湯原先生いらっしゃいますか?」  ガチャリ…数秒後そのドアは開かれた。顔を覗かせたのは頭の薄い冴えない中年。これが湯原先生?  私の心は思わずハァ?というリアクションを取ってしまった。どう見ても天才というタイプでは無い。いや、駄目駄目、人は見た目によらないんだから…。そんなことを考えていると中年の方から、声が掛かった。  「学生…じゃないよね?外部の方ですか。何の御用でしょう?」  まだ、学生でも通用すると驕っていた私は少し落胆したが、そんな思いはすぐに打ち消して名刺を差し出した。  「漫古北警察署、刑事課の宇津美と申します。湯原先生にお話がありまして。」  全て言い終えない内に中年はため息をつき、うざったそうな顔付きへと変わっていた。  「ああ、そういうことね。無理だよ。忙しいから。それじゃ。」  部屋の中へ戻ろうと中年が閉めかかった扉に必死で喰らいつく。  「湯原先生、お待ち下さい!私、先輩の草野刑事の紹介で来ました!大学で同期だったとか…。お願いします、私、このままじゃ帰れないんです!お話だけでも!」  中年は相変わらずうざったそうな顔で振り返った。  「草野さんねぇ…今までも随分迷惑をかけてくれましたよ。それに私は湯原先生じゃありませんよ。助手の栗斗利須といいます。」  助手か。道理で。その時、妙に納得してしまった私の背後から、コツコツと足音が近付いてきた。  「あっ、湯原先生。お客様ですよ。迷惑な客ですけど。」  私は足音の方に振り返った。長身で端正な顔立ちの男が歩いてくる。漂う品の良さに白衣が良く似合う。  ああ、これなら天才と信じられる。私は、先程、人は見かけによらないと反芻したことをすっかり忘れてしまっていた。  私の前で立ち止まった湯原先生が口を開いた。  「とりあえず、中へ。」  これが私とカリペロの出会いだった。
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