第一章「穴る」

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 「えーと…では書いてあることですが、簡単に説明します。」  私は事件の概要を湯原に語り出した。  「被害者の名前は槍 万子24歳。フリーター。遺体発見現場は自宅のアパート。アパートは施錠されており中には被害者一人でした。密室です。2時間前にアルバイト先から帰宅する所が、彼女の最後の目撃証言ですね。第一発見者はたまたま立ち寄った彼女の姉です。もともと立ち寄ることが、多かったようで合鍵を持ってました。…ここからが問題なんですが、床に倒れていた彼女のアナルから声がしたと…」  湯原は資料をめくる手を止めた。  「そのアナルは何と言っていたんだ?」  「正確には聞こえなかったらしいんですが…もう終わりかとか長かったとか…そういう内容に聞こえたそうです。呟くような声で。」  ふむ…そう言ったきり湯原は資料を置き考え込んだ。カリペロには幾分かでも、真相に辿り着く手掛かりがあるのだろうか。  「何か…引っ掛かるところがありますか?」  湯原は顔あげると突然笑い声をあげた。  「ハッハッハッハハハ」  なんだろうこの余裕は。まさか、この短い時間で真相に辿り着いたとでも言うのだろうか。本当に天才かも…  「ハハハハハ…さっぱり分からない。」  思わずこけそうになった。分からないって…思わせぶりに笑ったくせに。危なく変人を見直すところだった。  「はぁ…分かりませんか…」  私はため息をついた。  「いや、今の段階では分からないと言うことだ。仮説を立て実験をして証明する。これが物理学者の問題の解き方だ。よし、じゃあまず仮説を立てよう。」  湯原は勝手に話を進めだす。  「仮説…ですか。」  「ああ。まず仮説を立てる上で方向性を定めたい。解明するに当たって、僕が考えた真相のパターンは四つ。」  湯原は長い指を四本立てた。  「はぁ、四つですか。」  オウム返ししか出来ない自分が恥ずかしいが仕方がない。今回の事件、考えるのは湯原の役割だ。
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