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あの頃、何度死のうと思っただろうか。
大好きだったあの人は他に好きな女ができたのだと私の前から姿を消した。
カミソリを手にした私は
お風呂場で何度も泣いた。
震える手で何度も何度もカミソリを持ちかえた。
終わりにしたい。
人生を。
悲しみのない世界へ。
悩みも涙もない世界へ。
でもその頃、私のお腹の中にはあなたがいたの。
あの人の子が。
だから死ねなかった。
死にたくても死にたくても死ねなかった。
未来を見たくなったの。
暗闇だった世界に光がさした。
希望がさした。
あなたの未来がどんなものか見たくなった。
だからもう一度、もう一度だけ頑張ってみたくなったの。
日々大きくなるお腹が
幸せで仕方なかったのよ。
私は男の子だってすぐわかったの。
そしてあなたが生まれた。
初めてあなたの顔を見たとき
ああ生きていてよかったと本当に思った。
生んでよかった。
あなたでよかった。
毎日幸せだった。
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