序章.

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 『んん…、』  ゆるりと重い瞼[マブタ]を開けた。 まず視界いっぱいに移ったのは生い茂った枝葉、その奥に隠された薄く青い見慣れた空だ。  上体を起こし次は辺りを見渡した。 見知ったものは何もない、どこかの知らない森の中のようだ。  『ここは…』  立ち上がってもう一度周囲をぐるりと見回した。 人一人いない、静かな場所だ。  自分の身形を確認してみると、青地の着物に桜の花弁を模した柄のものを身にまとっていた。だが丈は膝上までというどこか浴衣に似た振り袖。 髪は視界で見える範囲は黒いからおそらく全部黒だろう。  下駄で一歩踏み出せば森の中を歩み出した。
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