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いくら進んでも代わり映えしない景色。
本当にここはどこなんだろうか?
「君、どうしたの?」
不意に声をかけられて振り返れば、先程まで誰もいなかったのに佇む人がいた。
にこにこと笑顔を浮かべて近寄ってくるのは男の人。
草色の着流しを纏い、さらさらと歩く度に動く髪は肩に着かない程度の長さ。
木漏れ日の光が反射してきらきらと輝く色素の薄い栗色をしている。
開けられた瞳はまるで獲物を見つけた猫の様な鋭さを持ち、瞳孔を細めた赤いそれが私を映した。
『…道がわからないの。』
彼を一通り観察したあと、私は彼の質問に答えた。
視線は彼の顔、ではなく…
その頭の上の変な耳。
獣の様なそれは猫のものに見えなくもない。
そんな私の様子を気に留めた風もなく彼は終始笑顔で言葉を紡ぐ。
「へぇ…?道、教えてあげなくもないけど?」
『本当に?』
「うん。でもその前に…――」
猫耳のついた彼の唇が僅かに持ち上がった。
彼は私の耳元に唇を寄せて続ける。
「…―君の名前は ?」
――ドクン、と心臓が高鳴った気がした。
『君の名前は“アリス”?』
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