~序章~

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ルームミラー越しに 右へ 左へ 揺さぶる様に その熊の様な巨躯は 風を切り 軽快なリズムで 走り続けている 車内には ハンドルを握る中年男と 助手席の化粧の濃い女 後部座席には まだ 就学前と見える 男の子が 見て取れた 助手席の女と 後部座席の男の子は 事態を理解していないのか ハンドルを握る中年男に訝しげな視線を浴びせている しかし 当の本人には そんな事は どうでも良かった 只 ひたすら 背後に迫る何者か から 逃げる事だけを考えていた ハァハァと 荒い息使い 血走った目 唇の端には 唾液の泡を溜め 必死に 只 逃げる事だけを考えていた 不意に助手席が気になった中年男が 視線を送ると つい 今しがた20m程後ろに居た筈の其が 真横の 助手席の窓から 車内を窺っているではないか この時 男の視線が自分に対して では無い事を理解した女は その視線を追うように窓の外に眼をやると 男が 何故 慌てていたのかが解った 『ヒィィッ…』 それ以上の言葉は出なかった 否 出したくとも 出ては来なかった ただならぬ車内の空気に 後部座席の少年も ゲーム機から 窓へと視線を送った
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