~序章~

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漆黒の闇の中で 鮮やかに輝く 翠の双眼 吐く息は 助手席の窓を薄く曇らせる程近く 後部座席の窓には 大粒の雨を思わせる 涎がピシャピシャと かかっていた 少年は 自分の股関から 立ち昇る 湯気にも気付かず 只ただ その得体の知れない生物を見詰めるばかり 女に至っては 身体をガクガクと震わせ 白眼を剥いている 『クルマヲトメロ…』 何処からか頭に響く声 『ハヤク… クルマヲ…トメロ』 声の主が 横を走る獣だと解るまで 差ほど時間は かからなかった 停めたくは無い 停めたくは無いが 身体が 勝手にサイドブレーキを引いた 物凄い勢いで独楽のように回転しながら それでもまだ 車は前へ進む 後部座席の少年が 遠心力に負けて右側のドアに叩きつけられ 助手席の女は ドアやグローブボックスに頭部を何度も打ち付けている 此のまま太い立木にでも当たれば 三人は 即死であろう 男が そう考えた時 車は 其までの激しい衝撃が嘘の様に ピタリ と 停まったのだ まだ焦点の合わない目で 二人を確認しようとした その時 助手席のドアが 開く気配がした と 同時に 外の冷気がヒンヤリと 男の顔を撫でる 此から起こるであろう恐怖と冷気で 男の全身に鳥肌が立ち 意識が完全に自分の物になった 『待て… 何処へ行く 外は危険だ車に戻りなさい』 助手席にいた女に そう声をかけたが 聞き入れては貰えない様だ 顔を上げで 女を確認しようと思った時 あの 得体の知れない 獣と 目が合った… 真っ赤な口から ダラダラと涎を垂れ流し ヘッドライトに照らされた為眼光は 更に鋭く光り 何より眼をひいたのは 二本足で立ち上がった獣の股間に直り起つ肉の塊
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