朝露の章

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「自身の地位が心配でも、何故陽夜に固執するんだ?」 「朝霧様と違って私は本当に心配しているのです。だから………」 「フン、心配か。」 ゾッとするほど冷たい声音に菜摘の背筋が震えた。 「その『心配』に幾つの意味が込められていようとかまわないが、この村の平和を壊そうとするならば、命の覚悟をすることだ。」 「……そんな大それたことを私がするはずないでしょう。」 「どうだかな。とりあえず陽夜は捨て置け。」 「私はそういたしません。探しに行きます。」 菜摘は主人をきつく睨むと軽く一礼して部屋を後にした。 「とりあえず菜摘を止める時間稼ぎはした。後はお前の頑張りしだいだな陽夜。」 朝霧は誰もいない宙に向かって、ふわりと微笑んだ。 空の一ヶ所から雲の割れ目が出来つつあった。 「小五郎―――っ、弥助―――っ、お海―――っ。」 森の中で少女の声がこだました。 が、けれどその声に応える者はない。 「やっぱり無理だったか。雨じゃどうしても外に行けるはずがないもんな………。」 私は抜け出したが、っと少女はボソリと呟き 諦めたのか、諦めていないのか、あてもなくそこらをぶらぶら歩いた。
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