朝露の章

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「痛っ…………。」 移動したは良いが、傷みに顔をしかめた右手の甲にうっすらと赤い血が滲み、右足もまた長く細い血の筋が出来ていた。 「災難だな………。」 忌々し気に呟くと少女は顔をあげた そして少女の動きが止まった。 理由はその景色のせいだった。 少女のいるそこを大きく囲むかのように笹竹や背の高い竹が密集している 周りは手の加えられていないがためにたくさんの種類の草が生えていた。 空から差し込む光は少ないが、それが幽玄的な美の世界を作り上げるのに一役かっている。 そして何よりも美しかったのは透き通った湖だった。 この広い地より少し小さいがそれでも広いことに変わりはない。 鏡のような静かな湖面は時折、頭上から降る雨露で波紋を作った。 湖面は竹の緑をうつし竹の高さのおよばないポッカリと切り取られた空を写した。 「わぁ…………あれ?」 湖より少し離れたところに、すっかり緑の苔に小さな小さな祠があった。 興味に駆られ立ち上がり駆け出そうとすると 「あ………………。」 そこだけ地面がぬかるんでいたためか、左足が足首まで埋まっていた。 苛立ち足を引っこ抜こうとするが一筋縄でいかない。 なかなかしつこかった。 「んっ………くっ………。やった!!…っあ!」 左足の救助には成功したが引っこ抜いた際に黒地に紅の鼻緒の下駄が湖のほうへ転がり トプンと音を立て、ユラユラと落ちていった。
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