朝露の章

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そろそろと這い出した少女は被っていた黒く広い布をバサリと払いのけ 懐から黒地に紅の鼻緒の下駄を取りだした。 肩より少し下まである黒髪は少女の証だが、鋭さを孕んだ大きな目は、年不相応の少年の目だ。 紅い唇が皮肉げにつりあがり 屋敷を一瞥すると、少女はそのまま庭を突っ切った。 後から響く喧騒にコロコロと鈴のような笑い声を上げ少女は走っていく。 軽やかな春の終わりの白い蝶々のように――――。 自身より背が高い笹竹の間を少女は走っていた 笹竹の群生しているこの場所は所々に踏み固められた小さな獣道があり少女はそこを器用に見つけ進んでいく。 しとしと、と降る雨や笹竹の露が鮮やかな露草色の着物をなお鮮やかに落ち着いた色に変えていく。 しなやかな細く白い手足が若竹色に染まり少女は一瞬の青嵐のようだった。
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