序章

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時は江戸。 少女は一人部屋の中で手渡された煌(きら)びやかな着物に視線を落とす。 とうとう恐れていた日が来てしまったのかと落胆し、彼女は障子の向こうに映える欠けた月を見た。 一刻前―少女、桜李(おうり)は命の恩人であり女将である雲母(きらら)に呼び出された。 「雲母様、桜李でございます」 「・・・お入り」 雲母の返事を聞くと同時に、桜李は襖を開けた。 そこには蝋燭(ろうそく)が四隅に揺れ、彩を取るものいえば一人の女とそばにある椿の花だけ。 女は煙管を片手に開いた障子に腰を掛け月を眺めていた。 女は月にも蝋燭にも照らされ、無造作に肌蹴た着物の裾から見える足の曲線をより美しく魅せた。 腰よりも長い漆黒の髪は、誰もが羨ましがるもので、振り向いた瞳は金色に光っていた。
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