スピルの暴走

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 ティナの身体を蝕む“スピルの暴走”とやらを治すべく、アステイン魔法学院に向かい始めた龍也一行と少女。   大空を目まぐるしい速度で突き進む竜の背中にいる龍也はそんな光景に圧倒される中、また訝しむような表情でいる少女が口を開く。 「あなたたち、一体何なの?」 「え?」  竜の背中に腰を下ろす龍也の目の前にすとんと座り、向かい合いながら少女は言った。  軽く周囲を見渡し、それが「あなたも見てみなさい」という意図に気付き、龍也も倣って辺りを見渡した。 「こんなに速い速度で飛んでいるのに、全然風の影響を受けないでしょ? これってアフェランドラが私たちの周りに風魔法を張って防いでくれてるからなのよ」 「あ、そうなんだ。どおりで……」 「いくらアフェランドラが“風”の昂竜だからって、命令もなしに魔法を使うなんてそうはないのよ。しかも、こんな形での魔法なんてもっとやらないわ」  そこで再び龍也に目線を向け、正体を探るようにじっと見つめてくる。  始めに言われた「一体何なの?」という言葉の意味が理解出来た龍也は、思わず目を逸らしながら困惑気味に口を開いた。 「い、いや、何でかなぁ……」 「それだけじゃないわ。あなたの抱えてるその子や、あなたの後ろのその子だってそう。普通のメイジじゃ絶対にありえないことをやってるのよ。魔法を使うには“杖”が絶対条件。それに取って代わるモノすら身に付けてないのに魔法を発動させてる。しかもこんなに小さい子供たちが、あんなに大規模な魔法をよ?」  問い詰めているというよりは、心を曇らせる疑問を解き明かしたいという気持ちを秘めながら少女は言う。  ティナがスピルの暴走になる前、龍也を誘拐犯だのと責め立てていた気持ちにも揺らぎが見え始めていて、白黒はっきりと付けたい気持ちもあった。  アフェランドラの態度、ヒナティナの龍也に対する想い、幼い子供が行った常識外れの大規模な魔法、それに加えてのありえない魔法の発動。  これほど不可思議なことがあれば、単なる誘拐や運び屋という話では片付けられない何かがあると少女はいやでも気付いたのである。      
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