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ミルフィを確かに抱き寄せる龍也の瞳に、もはや小さな陰りは見当たらない。
静寂な瞳の中を蠢く黒き影がゆっくりと晴れ渡っていく。
どこまでも行こうとも底の見えない冥暗な眼差しが放たれる中、男の口元はわずかにつり上げられた。
「!」
刹那、龍也の目線が天へと走る。
つい先ほどまではなかったものが、龍也たちの遥か頭上で展開される。
暗き幻想的な森をより一層暗黒へと導くかのような、巨大な漆黒の塊。
直径数百メートルを裕に超える禍々しきそれは、光線のごとく一瞬の間を置くことなく……龍也たちの全てを呑み込んだ。
とっさにミルフィをかばい、強く抱き締める龍也の背中に容赦なく降り注ぐ。
龍也の露にした『闇』とは到底比べ物にならないほどの、超大にして壮絶な『闇』の力。
視界も、感覚も、全てを闇に呑み込まれた龍也の耳に……確かに凛とした声が響いた。
「よく覚えておけ、己の覚悟を。お前は一度たりとも踏み外すことを許されない、そんな荊棘の道を選んだんだ。そいつの未来は何もかも、お前の手にかかっている。忘れるなよ……二度と後悔したくないのならな」
そうした声も、最後は闇へと紛れ消えていく。
到達することのない深い奈落へと沈んでいくかのような絶望感が意識を裂いていく。
そのような中、龍也はただ一つだけ、薄れゆく意識の中でとある温かさを感じていた。
腕の中で溢れてくるように感じる温かさ、龍也はその正体を知ることはない。
ただ、何もかもが壮絶な闇に帰す中、その温かさだけはそっと優しく、龍也を包み込んでくれていたのだった。
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