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政治やら何やら、一通り会談を終えていたためにどうにか支障をきたす結果にならなかったのが幸いだった。
フェイレリアの本来の役目である“シュシュマの宝液”等の仕入れも緊急時ということもあり、王城で厳重に保管されている在庫から特別に譲り受けることで事なきを得た。
多少問題はあれど、平穏に続いていた日常が一気に崩れ去った衝撃はようやく静まり返った戦艦の中でも確実に響き渡っている。
時計に目を向けてみると、いつの間にか深夜二時を回っていた。
しかし誰一人として眠りに付く者はおらず、一同さまざまな質の暗い顔を携えて沈黙の空間に身を置いている。
「チビッ子ちゃんたちはどうにか無事に起きたけど、この二人は全然起きないねぇ……」
多少距離が置かれながらも隣合わせで眠る龍也とミルフィを見つめながら、ミユのしんどそうな声が隣の人物に投げかけられた。
「それだけ状況は深刻、って考えたくもない想像しか浮かばないわね」
「せめて起きてくれれば、被害状況もどれほどのものか分かるんですけどね」
上質な椅子に腰かけるシェラとコニスが返事を返す。
二人ともミユ同様に疲れ切った声を出し、安否が確認出来るまでは気を抜けないと言わんばかりの表情がやつれて見える。
うんうんと力なく頷くミユは依然と龍也たちを見つめながらまたぽつりと呟いた。
「いつまでも一緒にいることなんて出来ないし、出来たらアス学に送り届ける前までには起きて欲しいよねぇ。気になって任務どころじゃなくなるし」
「ミユ、いくら心配だからって任務に私情を挟んじゃ駄目よ」
「分かってるけど、分かってるんだけどさー」
子供のように唇を尖らせ、自分の感情を抑え切れない。
だが実際、軍の中でも高位に位置する近衛隊に属するミユたちのレベルなら任務に付けば心の切り替わりなど訳はない。
ただ純粋に、一人の人間として関わりを持った少年少女の安否を心から心配しているのである。
しかし皮肉にも、ミユたちが見守ることの出来る期間の中で、龍也たちが目覚めることはなかった。
そして龍也たちは、アステイン魔法学院へと帰着した。
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