あとがき

8/13
前へ
/841ページ
次へ
「違わないよ、君は君なんだから」 「でたらめなこと言わないで。あなたの目に見えているのは誰? この声に聞き覚えは? 私はあなたに会ったこともないし話したこともなかった。でも、あなたは違うでしょう?」  震える声が医務室に響き渡っていく。  一瞬詰まるような間を置き、少女は言った。 「私はミルフィじゃないの。でも、ミルフィの身体にいる私は……一体誰? あなたなら、何か知ってるんでしょう?」  表情を崩すことなく、少女は抱える思いを吐き出した。  凛とした表情のミルフィの視線を受け止める龍也は、そっと呟いた。 「……前さ、ボクとミルフィは二人で一緒にいたんだ。湖のほとりっていうのかな、とにかくすっごく綺麗な場所でさ」 「?」  突然何かを語り出した龍也に少女は眉をひそめた。 「ミルフィが二人きりで話があるって言うから、何だろうって思いながらね。今思えば、どうしてあの時気付かなかったのかな……あんなに分かりやすい反応もなかなかないってのにさ」  小さく笑みを浮かべる龍也。  だがその瞳は深い深い黒色しか映し出さない。 「……何があったの?」  龍也の話の意図に気が付いたように少女が呟いた。  表情を変えることはなかったが、龍也の瞳はより一層暗くなっていく。 「ミルフィが襲われたんだ、誰かも分からないたった一人の人に。助けようと思ったけど、ボクの力なんてないに等しかったよ。ミルフィはそいつの手にかかって……ミルフィの心がずたぼろになって消えていくのを、ボクはただ……見てることしか出来なかった」  動揺した様子は微塵も感じさせない。  ただただ静かに呟く龍也。    
/841ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17615人が本棚に入れています
本棚に追加