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「違わないよ、君は君なんだから」
「でたらめなこと言わないで。あなたの目に見えているのは誰? この声に聞き覚えは? 私はあなたに会ったこともないし話したこともなかった。でも、あなたは違うでしょう?」
震える声が医務室に響き渡っていく。
一瞬詰まるような間を置き、少女は言った。
「私はミルフィじゃないの。でも、ミルフィの身体にいる私は……一体誰? あなたなら、何か知ってるんでしょう?」
表情を崩すことなく、少女は抱える思いを吐き出した。
凛とした表情のミルフィの視線を受け止める龍也は、そっと呟いた。
「……前さ、ボクとミルフィは二人で一緒にいたんだ。湖のほとりっていうのかな、とにかくすっごく綺麗な場所でさ」
「?」
突然何かを語り出した龍也に少女は眉をひそめた。
「ミルフィが二人きりで話があるって言うから、何だろうって思いながらね。今思えば、どうしてあの時気付かなかったのかな……あんなに分かりやすい反応もなかなかないってのにさ」
小さく笑みを浮かべる龍也。
だがその瞳は深い深い黒色しか映し出さない。
「……何があったの?」
龍也の話の意図に気が付いたように少女が呟いた。
表情を変えることはなかったが、龍也の瞳はより一層暗くなっていく。
「ミルフィが襲われたんだ、誰かも分からないたった一人の人に。助けようと思ったけど、ボクの力なんてないに等しかったよ。ミルフィはそいつの手にかかって……ミルフィの心がずたぼろになって消えていくのを、ボクはただ……見てることしか出来なかった」
動揺した様子は微塵も感じさせない。
ただただ静かに呟く龍也。
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