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「見てることしか出来なかったのに、ボクは……ミルフィの最期の言葉すら聞いてやれなかった。別れたくない一心で、叫んで、ミルフィの言葉を遮って……でもミルフィは笑ってくれて、ゆっくり眠っていった」
「…………」
「……あの時に、ミルフィは死んだんだ。はっきり言えるよ、あのミルフィはもういないんだって。だからもし君が、ミルフィであってミルフィじゃない自分だとか、そんな風に考えてるならボクは全力で否定するから」
そっと立ち上がり、龍也は少女の前に立った。
少女に右手を差し出しながら、龍也は言った。
「君は君だよ。ミルフィでも、他の誰でもない君自身なんだよ。ボクはそんな君を、心から歓迎するよ」
月明かりに照らされた龍也の顔が優しく輝いて見えた。
思いがけない言葉だった。
息を呑む少女は思わず右手が動き出そうとしたが、唇を結んで首を振る。
「あなたの言葉、正直嬉しかったわ。でも、そう言ってくれるのは……私が元ミルフィだからでしょう?」
そうでなければ、赤の他人となった自分を歓迎してくれるわけがない。
伏し目がちに呟く少女に、龍也は差し出した右手をそっと持ち上げ、少女の頭に振り下ろした。
「いたッ」
ぱちんと音が鳴る。
頭にチョップを喰らった少女は呆気に取られていた。
見上げた先の龍也の表情は、少しも冗談めいてなどいない。
「君が誰であっても、君はボクにとってとても大事な人に変わりないよ。でも、だからって君を歓迎するわけじゃないよ」
「じゃあ、何で」
理解し切れない。
龍也がミルフィと特に親しげだったのは分かっている。
ミルフィが亡き今、少女が龍也に歓迎される意味など元ミルフィという点しか考えられない。
そう考えないで他に理由など思い付かない。
龍也を見つめる無垢な瞳に、龍也ははっきりと告げた。
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