幕開け

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『わふ。んー、龍也あんた……何見てんのぉ?』  深い眠りから目覚めたばかりのような、そんな少女の声が龍也の脳内に鳴り響く。  龍也がその問いに答えないためか、少しムッとしたような声がさらに聞こえてくる。 『ちょっと無視しないでよ。ていうか私が頼んでたポテチ買って──』  不意に少女の声が途切れ、すぐさま悲鳴が上がった。  事態に気が付いたようだ。 『ちょっ、あんた何やってんのよ! ここどこ!? なに、この状況……!!』  戦々恐々と黙り込む龍也とは対称的に驚愕の感情を露にする少女の声。  しかしそんな声など全く聞こえていないかのように二匹の龍は反応を示さない。  何故ならこの少女の存在する居場所は、他ならぬ龍也の心の中に在るのである。  そんな不思議なこの少女の名は、 “九砂 悠奈(くずな ゆな)”  世に言われる二重人格者の一人、と周囲から認知されている精神体のみの少女である。  二人の間では“もう一人の龍也”と呼ばれるほどの特別な存在だ。  龍也の視るもの聞くもの全てを共有出来るゆなの視界には龍也と同じ二匹の龍が映っており、常軌を逸した臨場感は龍也と差して変わらない。  ゆなもまた、この状況に相当な混乱と困惑を見せ、何が何だか分からない様子である。  二人して突然の展開に恐れおののく中、ふと龍たちは舐めるのをやめ、わずかばかりに後ずさった次の瞬間。    
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