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娘の名前は『雪乃』
その名のとおり、白い肌に透けるような大きな瞳。
誰もが一瞬目を引くような美しい娘。
雪乃は働けない父親の為に山をひとつ越えた町の旅籠屋に奉公に出て、わずかな賃金で生活を成り立たせて過ごしていた。
山を越える途中に滝の流れる広い水辺を通り、町に出る。
雪乃はその場所が好きだった。
母親が死んだ時にもそこで泣き、奉公先でつらい思いをした時にもそこで泣いたりして、いつの間にかその場所が雪乃の拠り所となって、町まで出る前と、帰りに必ず寄るようになっていた。
ある日、奉公からの帰りに、いつものようにその水辺の寄ると、1人の男が佇んでいた。
雪乃は少し躊躇して、離れた場所からその男を見つめた。
…誰かしら?こんなところに寄る人なんて、村にも町にもいないはず…
雪乃の視線を感じたかのように、その男が振り返り雪乃を見つめた。
「あ…」
思わず声が出た。
年の頃は雪乃より上のようで、褐色の肌に涼しげな瞳。村や町で見かけるような男ではない。
そして、まるでこの場所に溶け込んでいるかのような不思議な雰囲気を纏っていた。
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