現実という名の時間旅行

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温泉でゆっくりした後、お目当ての店に向かう。 ゆっくりと言っても、私はすぐにのぼせて、先に上がってボーっとしていたんだけど。 姉は長湯(私からすれば)して、店はすぐそこだというのに、まだ身体から湯気が出てそうな雰囲気だ。これじゃあ辛いの食べると暑くて堪らないんじゃないかな。 だけど、そんな心配は必要ないだろう。きっと姉は普通のラーメンを注文する筈だから。 だって姉は大の辛いもの嫌い。それなのに付き合ってくれる姉が、実は大好き。 口が裂けてもそんな事言わないけどね。 ま、知ってるのに付き合わせる私が鬼畜ってのは言わない約束です。 店の前では、陰気な感じの若い男性が暖簾を出していた。きっと店員なのだろう。 『火喰い飯店』 真っ赤な布に、手書きなのか勢いのある字でそう書かれた、雰囲気のある暖簾だ。そして辺りには唾液腺を刺激する香りが充満していて、否が応でも味への期待をそそる。 その匂いに釣られるように、店先から長蛇の列が出来ていた。 私と姉は、一番後ろに並ぶ。 男性が暖簾を出し終わって店の中に入ると、次は恰幅の良い、人懐っこい雰囲気のおばさんが出て来た。そして列の人数を数え始める。食数が決まっているのだろう。 私はドキドキしながら、その様子を窺っていた。
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