時間という名の強迫観念

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だけど、私の内側でのた打ち回っている吐き気と悪臭が、思考の邪魔をしている。いや、邪魔されずとも、そんな事分かる筈もない。 何故なら、今まで私が生きてきた環境や常識とは、逸脱した状況下にあるからだ。 それでも、ニュースや小説等から、考えられるものを思い浮かべようとする。 頭に浮かんだのは、人身売買や誘拐、薬漬けにしての売春。 でも若い子ならいざ知らず、こんなに薹(とう)が立った女では、いくらにもならないだろう。 しかもそれは楽観的な考え方だ。 天井から吊されている人間のパーツが、状況はそれよりも最悪だと告げているのだから。 それらが告げているのは“死”。 恥辱に塗れて生きるのも嫌だが、目の前にぶら下がっているのは“死”以外の何者でもない。 何の感情もない、ただの“死”。 でも目的は? 目的さえ分かれば、活路が拓けるかも知れない。 そんな頼りない希望にでも、私は縋り付きたかった。 「んう……ん……」 私の後ろで発せられたその声に、私は飛び上がりそうになる。 しかし、それが姉の声だという事を、頭がどうにか認識し、私はそちらに顔を向けた。 勿論、天井は見ないようにしてだ。 姉が焦点の合わない瞳を薄く開いている。 「うー! んー、ん!!」 私は唸るしか出来ないのに、必死で姉に今の状況を伝えようとしていた。
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