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私はそのまま固まってしまっていた。
私の意識は天井の穴と、自分の心臓の音にしか向いてなかった。
現実から逃げてしまいたい。
と、突然、腕が自由になる。
次に足。
私は驚いて振り返ると、姉が包丁を手にしていた。
そうだ、私は一人じゃないんだ。
ただそれだけで、私の意識は現実を再び捕らえる事に成功した。
私は自由になった両手で猿轡を外し、姉と一緒に、部屋の隅にある大きなコンテナの陰に隠れる。
中からは腐臭がしている。それは、意識の中枢を自分自身から引っこ抜きそうな程の激臭だ。
中身が何かは想像もしたくない。きっと中を覗けば、自身の恐怖を更に煽るモノを見る事が出来るだろう。勿論、そんな馬鹿な真似なんかするつもりもない。
中は覗かないように、呼吸はなるべく抑えて、姉と二人で隙間に納まった。
あの店員が降りてくる。今回は二人共降りてきたようだ。足音でそう判断した。
懐中電灯の心許ない明かりが、辺りを照らす。
もしかしてここには明かりが無いんじゃないか。
そんな一縷の望みを抱こうとした時、闇に慣れた目を、眩しい光が刺してきた。
一瞬、視界が奪われる。
それと同時に、希望も奪われるかと思われた。
視神経が明暗の区別を付けられるようになると、視界に映る物体の輪郭が浮かび上がってくる。その視界の端に、店員の一人がこちらに近づいてくるのが映っていたのだ。。
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