時間という名の強迫観念

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次に意識が戻った時、私はやはりすぐには状況を掴めないでいた。殴られたと思われる場所が、ずくん、ずくん、と脈打っている。 足元が心許ない。顔が熱い。 頭を巡らせると、身体が揺れる。 鈎にかかったパーツが、私の目線にあった。 私の身体には、先程と同じようにロープが巻かれている。そして天井から下がった鈎に、足首のロープが掛かっていた。 私は他のパーツと同様に、天井から吊るされているのだ。しかも逆さまに。 そしてそれは、姉も同じだった。 どれくらい、吊されていたのだろう。 顔は赤くなり、額には血管が浮いている。 今回は姉の方が先に意識を取り戻していたらしい。絶望の色を浮かべた瞳で私を見つめている。その瞳から涙が溢れ、生え際に吸い込まれていった。 私達の下にはバケツが置かれている。 黒ずんだバケツ。 これから何をされるのだろう。 絶望と恐怖だけが身体を占めていた。 人の気配を感じた。 私はそちらに視線を送る。 そこには、あの肉切り包丁を手にした人影があった。 マンガ喫茶の店員だ。彼が、背筋の凍るような薄ら笑いを浮かべて立っている。私はこれまでで最悪の恐怖を感じた。 次の瞬間、強い衝撃を感じると同時に、喉が急激に熱くなる。次に踵。 痛みがそれを追い掛けるように、鈍く広がっていく。 でもすぐに頭に霞みがかかり始め、痛みよりも寒さに身体が震え始めた。 私の下からボタボタと、何かが滴り落ちる音が聞こえてくる。 「――!!!――!!」 「……――!!!!」 遠退く意識に、複数の声が聞こえたような気がした。 言い争いでもしているような感じだ。内容までは聞き取れない。また店員がおばさんに罵られているのだろう。 私の意識は、そこで真っ黒になった。
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