そして全ては終点に向かう

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「だから! うちの嫁が此処にいるだろうって聞いてるんだ!!」 男性の興奮した声が響く。 「いないって言ってるだろ?」 空惚けたようなおばさんの声が、それに答えた。 「昨日の夕方、此処で夕飯を食べるってメールが来たんだ! その後連絡がつかなくなって、行方が分からなくなったんだぞ!!」 「だからアタシは知らないって」 押し問答の末、結局話は平行線のまま、男性は追い返されてしまった。 彼は一緒に来ていた男性に宥められながら、おばさんから離れていく。 その背中を、おばさんは暗い瞳で暫く睨んでいた。それから踵を返して店の中に入ると、先程とは打って変わって、苛立ちの篭った怒鳴り声を上げる。 「何もたもたしてんだい! 今日の仕込みが間に合わないだろ!! それを運んじまったら、昨日仕入れたやつの下拵(ごしら)えをするんだよ」 その声は二人の男性には届いてなかった。彼らは話しながら歩いている。 「大丈夫だ。警察も探してくれてるから、すぐに見つかるさ」 「お義兄さん……いや! 絶対あそこにいる筈だ。なんていうか、そんな気がするんだ」 「分かってる。でも今はどうしようもないだろう」 男性は悔しそうに拳を握った。しかし、お義兄さんと呼ばれた男性が、彼に何か耳打ちする。 彼は暫く耳を傾けていたが、何かを心に決めたのか、次の瞬間、そこにあった悔しげな表情は消えていた。そして決意の篭った瞳で一度振り返ると、その場を立ち去ったのだった。
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