そして全ては終点に向かう

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辺りには闇が垂れ込めている。 『火喰い飯店』と書かれた真っ赤な暖簾の下から、最後の客と思われる人影が「ありがとうねー」という声に送り出されていた。 その人影が闇に飲み込まれると、陰気な顔をした店員が暖簾を降ろし始める。これから片付けを始めるのだろう。 闇に紛れて、二つの人影が路地に吸い込まれていった。それは昼間、この店の前でおばさんと押し問答をしていた男性二人の影だ。 彼らは辺りを窺いながら、『火喰い飯店』の裏手に近づいていく。 刺激臭の残り香が、空気中に溶け込んでいった。 二人は音を立てないように勝手口に近づくと、そこから店の中を覗き込む。 そこにある人影は三つ。 片付けをしているのだろう。 一つは客席、二つは厨房で動き回っていた。 厨房の人影の一つが、何かを持って勝手口に近づいてくる。 二人は慌ててそこから離れて、影に入った。そこから一人が店員の様子を窺っていると、もう一人がその肩を突(つつ)く。 振り返ると、彼は足元を指差していた。 その先に視線を送る。そこには、道路等でよく見かける、下水溝に繋がる鉄の格子があった。それは店の壁際に設置されているのだが、水が流れ込んでいる様子はない。しかもそこから、微かにだが人間の呻き声のような音が聞こえるのだ。 そして立ち上る、血生臭い臭気。 二人は地面に顔を押し付け、携帯のライトで中を照らして覗き込んだ。光は闇に飲まれながらも、そこにある何かに反射して、この下には空間がある事を教えてくれていた。 二人はその格子を外そうとするが、とてつもなく頑丈で、二人の力ではどうしようもない。 二人は顔を見合わせると、意を決したように再び勝手口に近づいていった。
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