そして全ては終点に向かう

7/9
前へ
/36ページ
次へ
「もう良い! それよりも早く二人を降ろさないと!!」 どれくらいの間、殴り続けていたのか。誰かにそう声をかけられ、義弟は我に返った。 自分の下にいる店員の顔は完全に潰れ、息は絶え絶えだ。自分の手は、拳を作る事が出来ない程に裂けている。 義弟が顔を上げると、そこには義兄が立っていた。脇から血を滲ませ、足を引き摺っている。しかし、それでも此処にいるという事は、上の二人を一人で片付けたという事だ。 だが、その表情は厳しい。 「警察には電話した。 でも早くしないと、あいつらがいつ目を覚ますか……」 そう言われて、義弟は自分の妻に目を向ける。その顔からは、既に生気が失せている。 ぼたぼたと、血の落ちる音が響く。命の流れ落ちる音。 それでも彼は一縷の望みを抱き、義兄と一緒に二人を降ろす為の手立てを探した。 二人がぶら下がっている鈎の付け根に視線を這わせると、そこから延びるチェーンが、壁際のボックスに繋がっているのが分かる。そのボックスにはレバーが付いていた。 彼はそれに飛び付き、両の手首でレバーを挟んだ。そしてそれを慎重に動かす。 ゆっくりと、二人が降りてきた。義兄がそれを受け止める。 縛めから解かれた義姉の震える身体を、義兄が抱き締めている。 しかし、床に横たわる自分の妻は、死んでいるようにしか見えなかった。脈も探る事が出来ない。 彼は妻の名を呼び続けた。それは慟哭に変わり、悪臭の満ちた部屋に響き渡る。 遠くからサイレンの音が聞こえている。それは次第に近づいてきていた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加