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「もう良い! それよりも早く二人を降ろさないと!!」
どれくらいの間、殴り続けていたのか。誰かにそう声をかけられ、義弟は我に返った。
自分の下にいる店員の顔は完全に潰れ、息は絶え絶えだ。自分の手は、拳を作る事が出来ない程に裂けている。
義弟が顔を上げると、そこには義兄が立っていた。脇から血を滲ませ、足を引き摺っている。しかし、それでも此処にいるという事は、上の二人を一人で片付けたという事だ。
だが、その表情は厳しい。
「警察には電話した。 でも早くしないと、あいつらがいつ目を覚ますか……」
そう言われて、義弟は自分の妻に目を向ける。その顔からは、既に生気が失せている。
ぼたぼたと、血の落ちる音が響く。命の流れ落ちる音。
それでも彼は一縷の望みを抱き、義兄と一緒に二人を降ろす為の手立てを探した。
二人がぶら下がっている鈎の付け根に視線を這わせると、そこから延びるチェーンが、壁際のボックスに繋がっているのが分かる。そのボックスにはレバーが付いていた。
彼はそれに飛び付き、両の手首でレバーを挟んだ。そしてそれを慎重に動かす。
ゆっくりと、二人が降りてきた。義兄がそれを受け止める。
縛めから解かれた義姉の震える身体を、義兄が抱き締めている。
しかし、床に横たわる自分の妻は、死んでいるようにしか見えなかった。脈も探る事が出来ない。
彼は妻の名を呼び続けた。それは慟哭に変わり、悪臭の満ちた部屋に響き渡る。
遠くからサイレンの音が聞こえている。それは次第に近づいてきていた。
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