『プロローグ』

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リリリリン……リリリリン…。 どこからか、虫の音が聞こえてくる。 あたりは真っ暗闇だったが、俺達のいる場所は、野営のための焚火で、ほんのりと明るく温かい空間ができていた。 『……遅いわね……彼……』 ふと、俺の横にいる 女性が呟いた。 長い金髪とエメラルドグリーンの瞳、切れ長の目をした美しい女性だ。 そうだね……。そう答えようとした時、ふいに背後のやぶが、ガサゴソと音をたてた。 やぶから出てきたのは、身長も体重も俺の1・5倍はある筋肉質の大男。 逞しさの象徴のような彼は、俺らにニッと笑いかけると、親指を立てて言った。 『問題なしだ。見張りもいないし、特に罠もない。乗り込むなら、今がチャンスだぜ』 彼の言葉を聞いた俺らは、待ち構えたよいに立ち上がり、火を消す。 いよいよ決戦の時が来たのだ。 彼女は、野営地の少し先にある崖まであるくと、美しいオカリナを取り出した。 『じゃあ、これを吹くわね……』 とたんに、美しい音色が暗闇を満たす。と、その音に聞き惚れる間もなく、天空から巨大なドラゴンが舞い降りてきた。俺ら三人がその背に乗ると、ドラゴンはバサッと翼をはためかせる。めざすは、この崖の向こうにある敵の城。歩きではとてもたどりつけそうもないその距離を、ドラゴンは一瞬のうちに飛び込む。 敵の城に着き、ドラゴンの背を降りた俺らは、敵の気配の全くない城内を、ゆっくりと進んでいく。 やがて、ひときわ大きな扉を開くと、そこはしょう気の渦巻く世界。 そして、広い部屋の奥にある肘掛け椅子に悠々と座るのは、恐るべき闇の魔王。 いよいよ決戦が始まるはずだった。が―。ニヤリと笑み崩れた魔王は、僕らに向かって両腕を差し出した。 その先端から不気味な閃光がほとばしり、俺達の体を包み込む、 とたんに体の自由がきかなくなり――。
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