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そもそも、この老人が余計なことをしなければ、親子3人で必死の旅をする必要もなかったのである。
実はこの老人、人を殺している。
古代中国では、三国志の英雄も水滸伝の英雄も、どういうわけか大抵の人物が過去に殺人を犯して逃げてきたような、ろくでもない連中ばかりなのだが、このボロ雑巾のような老人も、その例に漏れず前科者なのである。
浮気は男の甲斐性などという言葉もあるが、古代中国の場合、殺人は男の甲斐性などと言い換えてしまっても不自然ではない。水滸伝に登場する某天殺星のような奴は別格としても、人を1人ぶっ殺すなんて言うのは、日常茶飯事なのである。
とはいえ、殺人は殺人である。前後の見境も考えず殺してしまったばっかりに、今度はこの老人が仇として狙われる羽目になったのであった。
人は殺しても自分は死にたくないこの老人は、娘を連れて命からがら住処を逃げ出し、逃避行を続けることになったのである。
そんなわけで、娘達はいいとばっちりを受けてしまったのであった。恨むのも当然である。
そのことを娘達に責められてもこの老人は
「はて…。そうじゃったかのう」
である。
歳も歳であるから、本当にボケているのか、追及を避けるためにわざとボケた振りをしているのか、その判断が付かない分始末が悪い。
心の中では、このクソジジイさっさとのたれ死ねばいいのになどと思っていても、やはり父親は父親。こんな何もない場所に放っておく訳にはいかない。
姉さん、こんな奴ここにおいていきましょうよ、とでも言いたげな妹の視線を無視し、肉ダルマ女は老人につき合って少し休憩することにした。
一行が沛県へとたどり着いたのは、それから3日後のことである。
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