劉邦の結婚

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 さて、ここで舞台はその沛県へと飛ぶ。  ボロ雑巾一行が目指した沛県の地には、この物語の主人公が居た。  名を劉邦といい、亭長という職務に就いている、いわゆる役人である。  しかしこの男、さっきのボロ雑巾など相手にならない、なかなかとんでもないろくでなしで、毎日酒と女に溺れ、ろくに仕事もやっていなかった。  今で言うニートと違うところは、一応職には就いていると言うところである。逆に言えば、それしか違いがない。  この男、かつて仕事で別の地に行ったとき、始皇帝の行列を見たことがあった。  そのとき、圧政を布く始皇帝を憎らしげな目で見ている人々の中で 「いやあ、男ってのはこうじゃないといかんなあ!」  と、この劉邦1人だけ訳のわからない感心をしていたという。  それならば一生懸命働いて、そのような権力者に少しでも近づこうと思うのが普通の人間なのだが、劉邦の頭に真面目に働こうなどと言う考えは存在しない。  そんな劉邦であるから、この男に対する世間の評判はもちろん芳しくない。  同じ役人仲間はもとより、親兄弟からも 「この駄目人間が!」  と、見放されている節がある。  しかし劉邦は、一部の人間からは人気があった。いわゆる、劉邦のような駄目人間、暴れ者、社会からの落伍者、つまはじき者といった、一言で言えばクズ達に非常に人気があったのである。  いわば、ゴミ人間のカリスマであった。
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