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「おい! 大変だ!」
楽しげに騒ぐ劉邦達のもとへ、突然声を荒げて入ってきた男が居た。
「何だよ、樊カイ。お前便所に行ってたんじゃなかったのか?」
「それどころじゃないんだ、兄貴! 聞いてくれよ」
劉邦を兄貴と慕うこのむさ苦しい若者は、名を樊カイ(ハンカイ)という。劉邦の弟分で、なかなか気骨のあるナイスガイの肉屋である。
どうやらこの樊カイ、便所に行って来た帰りに、ほかの客から面白い話を聞いたらしい。
劉邦は樊カイの話を聞こうとしたが、何せお互いそうとう酔っている。まともな会話になるわけはない。
「つまりよ、兄貴。だから…」
酔っぱらっているせいで、なかなか要領を得ない樊カイの話をまとめると、つまりはこういうことらしい。この沛県に有名人がやってきた。
「なんだよ。それだけかよ。で、そいつはどういう奴なんだ?」
やはり劉邦も、こんな田舎の地に有名人が来たとなれば、少しは興味が湧いてくる。樊カイのように大はしゃぎというわけではないにしろである。
「え? どんな奴? いや、それは…」
詳しいことは樊カイも分からなかった。ほかの客の話を盗み聞きしただけであるから、仕方のないことではある。
そのうち樊カイは、そいつは念力で自由自在に空を飛んだとか大岩を素手で叩き割ったなどと言い出しはじめた。所詮は酔っぱらいである。
ともあれ、どんな奴にせよ、町の人間の話題になる程度の有名人であることには違いない。劉邦も
「それならちょっと俺も見に行ってみるか」
ということになった。
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