アンパンマンという肖像

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 まるで冗談みたいだ。  死にゆく世界でようやく出会った相手は互いに殺さねばならない相手だなんて。  なんて陳腐で衝撃的で感情的でトチ狂ったお話だろう。 「出たな、バイキンマン」 「ぎゃっはっはっは、覚悟、アンパンマン!!」  そうだ。  僕の罪を定める人も、罰を加える人も、執行を見届ける人ももう居ないのさ。  居るのは咎人ただ二人。  負うべき責も定かならぬ咎人二人だ。  ならば僕は己がかくあらんと決めた罰を全うしよう。  ――戦おう。  孤独に戦い、孤独に傷付き、孤独に死ぬまで。  ――世界にただ一人残されるまで、犯し会おうじゃないか――。 「行くぞ、バイキンマン!!」 「来おぉぉぉい!! アァァンパンマンッ!!」  勝てるわけなどない。  ピンチを救う人々も僕が殺したのだから、味方なんていない  惨めに負けて、嬲られて、苦しまされて死ぬだろうさ。  ――だがそれでも構わない。  立ち向かうことこそが僕の、アンパンマンといい存在のありようなのだから。  愛と勇気は僕だ。僕を僕たらしめるものだ。それを頼りにあの暴君に立ち向かう事が、せめてもの贖罪もどきなのだ。  ――かつて誰もが望んだ英雄のように。  ――誰かの讃えた英雄のように。  ――誰しも求めた御伽噺のように。 「アァァン、パァァ――」
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