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ルメリアがこれを見つけたのは今日の朝、教室の自分の机の上だった。
隠そうともせず、堂々と文字の面を上にして置いてあったので、もし彼女以外の生徒が先に教室に来ていたら、この便箋の内容を見られていた事だろう。
しかし、そうならなかったのは、彼女が全校生徒の中で最も早く学校に来る生徒だからだ。
実は彼女、運命の人に出会う可能性を高めるために通常の生徒よりも30分も早く学校に登校していた。
その事を漆川がどうやって知ったかは知らないが、彼女はストーカー染みて嫌な感じだと思った。
ーそれはさておき、始業式の後に移動の時間と休憩の時間として1時間ほど時間が設けてあるが、漆川はその時間を使うつもりの様だ。
何度言われても断るつもりであるし、気分は乗らないが、行かずに悪い噂でも立てられたら堪ったものでは無いので、彼女はこうして部室楝を訪れていた。
しかし、いざ行こうとすると気分が非常に億劫な為、こうして部室楝の前に座っている訳だ。
ーという風に彼女の中での漆川の評価は現在進行形で下降していた。
ルメリアは特に理由も無く空を見上げ、目を細める。
先程の便箋には待ち合わせの時間などは書かれていなかったので、もう部室楝の裏には漆川が待っているかもしれない。
しかし、彼女は漆川に会う位なら残暑の太陽の下でこの身を焼かれていた方が遥かにマシだと思うくらい、彼の事を嫌いになっていた。
ルメリアは顔を下ろし、目を瞑って、溜め息を吐く。
本来ならあんな餓鬼の為に使う時間等、永遠の生を持ってしても勿体無い事この上無い。
だが、学校という組織にいる以上、上の学年の―、更に言うなら学校1人気者である生徒会長を敵に回す訳にはいかない…。
彼女はどうにか自分を納得させるためにそう考えると、サッと顔を上げて、パッと目を開いたー。
「…大丈夫ですか!?」
「…えっ?」
いきなりの展開に私は思わずそんな声を挙げていた。
私の前で両膝に手をやり前屈みの状態で、ぜぃぜぃと荒い息を吐く黒髪の男子生徒。
どうやらここまで走って来た様で、至る所汗でびしょびしょになっている。
「いや…、しばらく経っても…動かなかったので…どこか…体調が悪いのか…と思って…」
息が整わぬ内から、早口でそう言う男子生徒を見ながら、私は成る程…と思った。
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