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校舎の裏側にある旧正門ー。
現在は裏口としての役割を果たしている場所だ。
そこに在る、未だに撤去されていない旧3学年下駄箱の裏に隠れた私達は、荒い息を吐きながら座り込んだ。
「ハァハァ…、ここまで来れば、もう大丈夫なハズです…」
半ば倒れる様な体制で下駄箱に寄りかかり、そう言う彼に対して、いち早く息を整えた私は呆れながらー。
「…助けて貰ってこんな事を言うのもどうかと思うけど…、よく言えたわね。あんな嘘…。バレたらどうするつもりだったの?」
ーそう、さっき彼が言っていた「先生こっちです!!」は全くの嘘。
あそこに居たのは彼1人であった。
彼は息が整ったかどうかよく解らない状態で笑みを溢し―。
「その時は…助けに入るつもりでした。こう見えてもキックボクシングしてるんですよ」
蚊も殺せぬ様な無邪気な笑みで、シュシュと手を伸ばして見せる彼に対して、私はやはり苦笑するしかなかった。
ー凄く人が良い事は解ったが、これだけは聞いておかなくてはならない。
「それにしても、どうして私が危ないって解ったの?貴方、校舎に向かってたわよね?」
私にミネラルウォーターを渡した後、彼は確かに校舎へと向かっていた。
それから漆川と話して事が起きるまで、それなりの時間が経っていたし、彼があそこに居るのは不自然だった。
私がそう言うと彼は突然、真面目な表情を作ってー。
「何か、妙な胸騒ぎがして…」
シ~ン…。
私がムッとした事に気付いた彼は、ハハハと表情を崩してー。
「いや、偶々あの不良の先輩とすれ違ったんですよ。向かってた方向が部室楝だったんで、まさかと思って着いていったら…ね」
「…そういう事だったのね」
相槌を打ちながら、男子生徒の表情を見る。
顔筋、笑顔、目、仕草ー、その何処にも嘘を吐いている様子はなかった。
そうなるともう1つ別の疑問が浮かんでくるのだが、ーその前に…。
「貴方、何で同級生に敬語使ってるの?話辛くて仕方ないんだけど…」
鞄に着いたラインの色は赤。
このラインの色は学年を表しており、今年は1年生から赤、青、緑となっていた。
学年が上がっても自分達の色は変わらない為、来年は緑、赤、青になる。
ーという理由から彼は自分と一緒の1年生。
勿論、実年齢は遥かに下だが、同級生に敬語を使われるのは違和感でしかなかった。
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