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全面ガラス張りのラウンジは光を取り込んで、1月だっていうのにまるで春のようにポカポカと温かい。
窓の外には見事な日本庭園。
完璧なまでに手入れされた庭木と、色彩鮮やかな鯉の池、奥には小さな人工の滝まで流れてる。
とある高級ホテルのラウンジでの昼下がり。
普段なら足を踏み入れることすらためらうような。
ましてやお泊りする機会なんて未来永劫なさそうな。
そんな敷居の高い場所に、私は成人式以来の振袖を着て座っている。
しかも妹を除く家族、つまり両親と一緒に。
「瑞希。主役なんだからもっと明るい顔しろ」
そう言う父さんの方が、着慣れないスーツなんか着込んでガチガチに緊張している。
「だって、着物キツイんだもん。母さんが帯締めすぎなんだよ」
「バカね。ちょっとでもほっそり見せてあげようっていう親心じゃないの。気ぃ抜くんじゃないわよ。息を止めなさい」
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