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夜。ミドリは黒のシルビアを自宅に向け走らせていた。バージ二アスリムから細い煙をくゆらせながら。
(ゴヒ・・・とうとう連絡なかったのね)
不安と憂鬱は晴れなかった。遂にゴヒから連絡は、無かったのだ。ふと気がつくと車はミドリの自宅とは別の方向に向かって走っていた。
(あら?道が違う・・・ここは?ああバカね。あたしったらゴヒのアパートの方じゃない)
ゴヒを想う気持がハンドルを誤らせたのか。
(そうね。あんなバカな男だったけどやっぱりワタシはあいつが好きだったんだ)
こらえていた涙が急に溢れだした。嗚咽。そして車はゴヒのアパートの前を通り過ぎた。(…灯りだ?)
アパートの窓に電気が点いている。
(誰もいない筈なのに・・・まさか?帰っているのかしら?でも、ゴヒのことだから点けっ放しで出掛けたのかも?)
何れにせよ確かめずにはいられない。もしや、とも思いミドリはアパートに向かった。階段を駆け上がる。ドアの前に立った。部屋の合鍵はゴヒから貰っていた。ミドリの鋭敏な感覚は中の気配を感じ取った
(人がいる?ゴヒ?)
しかしMET隊員である彼女は冷静さを失わなかった。ハンドバッグの中から、小型携帯銃メットデリンジャーを取り出す。左手でゆっくりとドアを開けた。おそるおそる覗き込む。ゴヒがいた。そしてだぶだぶのガウンを着た女性が前にいた。二人はキッチンのテーブルで酒を酌み交わしていた。ゴヒはさも楽しそうにその女性と話していた
「そーなんだよ。んで前の彼女がとんでもないコでさー」
長い髪の女性が笑った
「あら、そんなことおっしゃると怒られますわよ」
「いいのいいのあんな暴力女。今日の僕たちの出会いにかんぱーい!」
「乾杯」
ミドリは怒りに我を忘れてそうになったが努めて平静さを保ちながら中に入り込んだ
「今晩は。随分と可愛い彼女ですのねえ?」
ゴヒはたった今口に入れたニッカのピュアモルトロックを噴き出した。
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