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ガキィィィィンン――――
闇には大きな満月が静かに浮かんでいる。
その静寂を打ち破る様に剣を交える音が響く。
音の主は二人。
何度目かの剣を交えた際、お互いの剣をギリギリといわせながら片方が口を開く。
「新撰組副長ともあろう奴が一人夜のお散歩かい?…そんなに襲ってほしかったとわねエッ…ッッ」
力任せに相手の剣を薙ぎ払い再び間合いを取る。
副長と呼ばれた男は不適な笑みを浮かべ、剣を構え直し相手に切り返す。
「ハッ…奇兵隊総監がお供も無しで何フラついてやがんだ…?そんなに俺に切られてェの…」言い終わらぬ内に再び激しい音と共に剣が交わる。
二人の戦いの場となっている所は、京の都を見渡せる小高い丘である。
そして大きな桜の木が一本だけ、そこにあった。
春が来れば美しかろうそれも、秋も終わりつつある今の時期には特に気になるような木でもない。
しかし廻りを見ても、他には足元に生える雑草程度の草花ぐらいしか生えていないので嫌でも目を引く。
その背後には大きな満月が差し掛かっている。
まるで満月が、そっと寄り添っているようだ。
――――なんで寂しそうなんだ、コイツ…。
二人とも時は違えど、偶然この場所に辿り着き、桜の木を見つけ、気にかけていた。
そして同じ想いを抱いていた。
ただの桜の木なのに、何故か気になる。
同じ想いを抱いた二人が偶然出会い、剣を交えている。
幕末のこの時代でなければ…
争いの無い時代であれば…
二人はわかり合えたのだろうか…
激しく剣の交わる音は続く。
桜の木は悲しげに、風にその枝を揺らしていた。
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