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「いくちゃん」
隣の部屋に居た郁は、静かに返事をした。
「なーに、おばあちゃん」
「ちょっと、いくちゃん居るのー?」
しゃがれた声で私を呼ぶのは、おばあちゃん。最近、すっかり耳が遠くなっちゃって…。
「はいはい。なーに、おばあちゃん」
郁は、祖母のいる和室にのそのそと這った。おばあちゃんは、メガネをかけ、テレビを見ながらミカンをむいていた。
「…いくちゃん?」
…何度言えばわかるのだろう。おばあちゃんは、もう78歳になる。記憶力も低下し始める年齢なのだろうか。
「そうよ」
おばあちゃんはこちらを見て、にこりと笑うとミカンを渡した。
「あまくて美味しいよ」
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