もう一人の

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*** 「それで、突然戻ってきた理由を教えてもらおうか」 「……ずいぶんと堅くなったもんだな、道重」 「逸らすな!」  綾鷹が席を外している間、道重は昌景を呼び出した。  いつまでも話す様子もない昌景に苛立ちを覚える。 「今回の婚約について知っていたから、じゃ理由にならないか?」 「なっ……!!」  大きく目を開き、道重は言葉を呑み込んだ。 「俺はあの時、知っていたんだ。だから、今戻ってきた」 「っ、だったらなんであの時、居なくなったりしたんだ。何故……」  何の相談も無しに、  俺たちの前から姿を消したんだ。  云いたい言葉も、言葉にならない。 「俺は、そんなに頼りにならなかったのか」 「道重、」  ぽつりと呟いた言葉も、昌景にはしっかり届いていた。  拳を握りしめ、弟を見据える。 「俺は、もう決めたんだ」 「昌景……?」  何を?  聞きたくても聞けなかった。  そう云った兄の顔が、あまりにも辛そうで。  昌景、お前は何を。  まだ何を隠している?  また、俺に何の相談もないのか。  道重は静かに去る昌景の姿をただ見ていることしかできなかった。 ***
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