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「それで、突然戻ってきた理由を教えてもらおうか」
「……ずいぶんと堅くなったもんだな、道重」
「逸らすな!」
綾鷹が席を外している間、道重は昌景を呼び出した。
いつまでも話す様子もない昌景に苛立ちを覚える。
「今回の婚約について知っていたから、じゃ理由にならないか?」
「なっ……!!」
大きく目を開き、道重は言葉を呑み込んだ。
「俺はあの時、知っていたんだ。だから、今戻ってきた」
「っ、だったらなんであの時、居なくなったりしたんだ。何故……」
何の相談も無しに、
俺たちの前から姿を消したんだ。
云いたい言葉も、言葉にならない。
「俺は、そんなに頼りにならなかったのか」
「道重、」
ぽつりと呟いた言葉も、昌景にはしっかり届いていた。
拳を握りしめ、弟を見据える。
「俺は、もう決めたんだ」
「昌景……?」
何を?
聞きたくても聞けなかった。
そう云った兄の顔が、あまりにも辛そうで。
昌景、お前は何を。
まだ何を隠している?
また、俺に何の相談もないのか。
道重は静かに去る昌景の姿をただ見ていることしかできなかった。
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