候補者

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「うーん、」  中庭の覗く部屋の外で、綾鷹は唸っていた。 「道重も、昌景も、なんか変だ」  あれから二人で話をしたらしいのだが、どうも様子がおかしい。  雰囲気はまるで変わっていないが、おかしいのは二人の距離だ。 「二人して壁をつくってるみたいだ」  せっかくの再会だというのに。 「何、一人で百面相してんだ」  聞き覚えのある乱暴な声に、綾鷹は振り向く。 「あ、九鬼 昂揚」 「……煩わしいから、やめろ。昂揚でいい」 「昂揚、」  金色の髪が夕日に照らされて、発色良く輝いている。  昂揚は綾鷹の隣に座って、胡坐をかいた。 「最初の雰囲気と、違う」 「あ??」 「昨日は、ピリピリしてた……気がする」 「あー、」  いかにも喧嘩してます、な感じだったが今ではその様子もまるでない。  昂揚は右手で後頭部を掻く。 「俺は茂盛が気に入らねんだ、」 「茂盛……?」  昨日、昂揚がやたら突っかかっていた相手か。  随分と正反対の二人だなと感じていたのだが。 「あいつの、あの澄ました顔が気にくわねぇ」  あの、見下している目が。  昂揚はぎりっ、と歯ぎしりした。 「今回の婚約の件もあいつに勝ちたいから参加したんだ」 「勝ちたい?」 「表のやつらは、裏のことを下に見ているからな。あいつを見返すチャンスなんだ、」  自分のために彼はここにいることを選んだ。  それも有りだろう。綾鷹は心で納得する。 「お前には悪いけど、俺はお前を手に入れる」 「っ、」  昂揚の顔が近付いて、口付けをされる。  噛みつくように。
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