その花の名は、

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*** 「綾様、」 「みち、しげ」  綾と呼ばれた人物は乱れた着物をそのままに、男を見る。  男は酷く優しい眼差しで綾鷹に触れる。 「肌を出しては、風邪をひきます」  男は着物を直して、主を見やる。 「すまない、」  微笑んだ綾は、低い声をしてはいるものの、その姿は娘だ。  くっきりとした二重、ふっくらとした唇。綺麗な黒髪は肩まで伸びている。 「母様は、」 「先ほど、お亡くなりに」 「そう、」  綾は立ち上がって、窓の外を見る。  その姿を追うように、道重も視線を移した。 「私はこれから、どうしたらいい」 「綾、さま」  道重は言葉を失った。  あの気丈で今まで泣いたことのなかった主人が涙を流している。  自分の目の前で、初めて。  当主とはいえ、まだ12歳の子供なのだと道重は思い知った。  それと同時に体内から込み上げてくる衝動。    自分に出来るのは一つ。 「綾様……いえ、綾鷹様」  道重は真実の名を口にする。  凛として、綾……綾鷹は道重を見た。 「これからは、綾鷹として生きていけばいいのです」  奥様が亡くなられた以上、主人を縛るものなどないのだと。  道重は主人の身体を抱きしめた。  その小さくて儚い、その身体を。 「貴方はもう、女性ではなく男性なのだから」
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