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「かあさまぁっ!かあさまぁっ!やだぁ!!にいさまっ!!」
まさに煉獄の炎とも言える赤い、赤い大きな炎。
目の前で広がり続ける赤いそれは、少女が住む村を焼いていた。
「にいさま、はなして!」
少女は自分を担いで村から遠ざかろうと走る兄の背を必死に叩く。止まれ、と。あの場所には大切な人たちがいるのだと。
だが、彼の足は止まらない。
兄の腕から逃れようと藻掻くが、余計に己の自由をとれなくするだけだった。
「はなして!はなしてぇっ!」
ダンダンと少女は精一杯の力で兄の背を拳で叩く。しかし所詮、子供の力。少女と十(とお)近く離れている彼には、痛くも何ともない。
そう、痛くも何ともないのだ。心以外は―――。
「ふ、うっ、」
少女は嗚咽を漏らす。瞬間、彼女が住んでいた家が炎によって崩れ落ちた。
自分の家が崩れる様を目の当たりにし、少女は目を見開く。目尻から溢れる涙は一層、量を増した。
「うわあああぁぁぁぁぁ!!!」
慟哭が響く。
叫びを呑みこむ夜は静かに横たわる。
少女を抱かえる彼もまた、静かに涙を湛えた。
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