本日、とある平隊士の一日

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  酉の刻を少し回った頃、屯所の広間では、夕餉を食べるため集まった隊士でごった煮状態だった。 「諒(りょう)!」 田宮は不意に自分の名を呼ばれ、頭を巡らせた。本名は諒太(りょうた)だが、新撰組に己の事を諒と呼ぶ人間が一人いる。その人物を漸く発見し、田宮は隊士の合間を縫うように呼んだ彼、市村鉄之助の元へ向かう。 「鉄(てつ)!」 「よっ、今日も一日お疲れ。道場で沖田さんに扱(しご)かれてたらしいじゃん」 「もうお前にまで話が流れてんのかよ……」 げっそりといった顔をしながら、諒太は鉄之助が確保してくれた夕餉を受け取る。 「原田さんから聞いたんだよ。仕方ねぇじゃん、新撰組(ここ)ん中で沖田さんと渡り合える人は少ないし」 「それはお前も一緒だろ。たまには役目を代わってくれ」 ムスッとしながら諒太は鉄之助に指摘した。鉄之助は鬼の副長こと土方の小姓(主に雑務)だが、剣の腕は沖田程ではないもののそれなりの力量はある。 「残念。俺は一番組じゃなくて副長の小姓だからな、諦めてくれ。俺、あの人のお守りで手一杯だから」 そう言われてしまえば、諒太は黙るしかない。確かに鉄之助は屯所内で見る度、仕事(雑務)で忙しなく動き回っている。鉄之助曰く、一つの仕事(雑務)の量がそれはそれは多いらしい。彼も決して遊んでいるわけではないので、これ以上とやかく言う事は止めた。  
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