本日、とある平隊士の一日

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  そこで、あ。と鉄之助が何かを思い出した様に声を上げた。諒太は何事かとご飯に動かしていた箸を止める。どうしたと問う前に鉄之助は口を開いた。 「俺、今日二番組と一緒に夜の巡察に出るんだ。久しぶりに」 「突然だな、どうしたんだ?」 「二番組の隊士が一人、体調崩してその代理」 実は鉄之助、土方の小姓であるためどこの隊にも所属していない。だが稀に巡察に出れない隊士の代理役や、実践での感覚・腕を鈍らせないために巡察に参加するのだ。 大抵参加する巡察は昼間なのだが、今回は夜。昼間に体を酷使している鉄之助には今回の巡察は堪えるだろう。 「お前、昼間あれだけ動き回って夜は巡察って…、大丈夫なのかよ?」 「大丈夫なわけねーよ。だから副長から明日休めるように休暇、分捕(ぶんど)ってきた」 イェイ。とVサインしながら鉄之助は得意げに笑う。そんな彼に諒太は苦笑いを浮かべた。 そのまま他愛もない話を続けながら夕餉を平らげ、二人は広間を出た。 「じゃあな」 「おう」 鉄之助は巡察の準備へ、諒太は一番組の相部屋へ戻ろうと二人は正反対の方向を向いた。が、鉄之助は踵を返してこちらに戻ってくる。彼の纏う雰囲気が急に真剣身を帯びた。 「鉄?」 どうしたんだと言う意味を含めて諒太は彼の名を呼ぶ。 「諒。今日、夜中何かあったら直ぐに動けるように用意しといた方がいいかもしれねぇ」 「え?」 「副長が何か違和感を感じてるらしい。それに最近、『鬼』のやつも頻繁に出没してるからな」 「……分かった。気をつけて行けよ、副長の勘はよく当たるからな」 「あぁ、今夜は何も無いことを祈るよ」 今度こそ、じゃあと言って鉄之助は去って行った。諒太は彼が曲がり角で姿が見えなくなるまで彼を見送った。  
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