お菓子業界の陰謀の活用法について

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     ベートーベン作曲交響曲第5番ハ短調作品67「運命」が鳴り響く。  「うるさい……」  突然のメールの受信音で目が覚めた。  散乱する漫画や教科書の上に、横たわっている私。  ピンク色のカーテンを通して、朝の光と冷たい空気が入り込んでくる。  「さむ…………えっ!? 嘘!? 寒っ!さっむぅぅぅぅ!!!!」  どうやらベッドから転げ落ちたまま、熟睡していたらしい。パジャマ一枚で防寒できる筈もなく、私の身体は氷のように冷たくなっていた。  「死ぬ! 凍え死ぬ!! あっ、いけなっ! 学校!」  大騒ぎしながら、部屋にある日めくりカレンダーに目をやる。  2月13日、日曜日。学校はお休み。  ほっとした私はそのまま倒れ込んだが、フローリングの冷たさにすぐさま跳ね起き布団の中へと潜り込んだ。  「もしこれが13日の金曜日だったら、確実に死んでいた。そんな気がする……ん? 13日?」  ガチガチと歯を鳴らしながら、顔だけ布団の外に出してもう一度日付を確認する。  間違いなく、2月13日。  そう、明日はバレンタインタインデーだ。  正直、こんな乙女向けのイベント私には無関係である。  しかし私は、今までどんな行事も逃さなかった。  ひな祭りには桜餅を食べ、こどもの日に柏餅を食べる。  ハロウィンにはカボチャの被り物をして、手当たり次第にお菓子を請求した。  クリスマスには友達とパーティーを開きご馳走を食べてプレゼント交換。お正月はおせち料理とお年玉を頂戴した後、巨大な凧を上げた。  だからこの『女子がチョコレートを渡す日』にも積極的に参加すべきなのである。  元々の目的と違う? そんなの知ったことじゃない。そもそも私のような人達が各企業の希望通り消費を行うから、景気が良くなるというもの。  要するに、楽しければいいのだ。もしくはおいしければ。  しかしどうしたものか。とりあえず女友達同士の友チョコ交換はするとしても、それだけではもの足りない気がする。  「あ、メール……」  完全に忘れられていた携帯を慌てて掴み、その内容を確認した。  送信者【松井 太一】  『悪いんだけど、今日学校に部活の書類持ってきてくれないか!?』  あの馬鹿。休日に……  その時、ふと浮かんだアイデアに思わずニヤリとする。  「そうだ、義理チョコをあげよう」  それも、何か面白い方法で。  
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