お菓子業界の陰謀の活用法について

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    ――――お菓子業界の陰謀      の活用法について――――    【作戦1】  用意する物。  ケーキ、1200円。『渡したいものがあります!』と別人を装った手紙、100円。  場面は、王道の校舎裏。  律儀に指定の場所へと松井太一がやってくる。  『松井――――――!』  そこへ、チョコレートのホールケーキを右手に乗せ、全速力で駆け寄る私登場。  本来ならば卓越した反射神経を持つが、この状況を理解出来ず反応が完全に遅れる松井。  『ハッピ――――バレンタイン!!』  そして至近距離で私の投げつけたケーキは見事彼の顔に命中する。  生クリームまみれでしばらく突っ立っていた松井だが、事態を飲み込むと乱暴に顔を拭い、一言。  『……てめぇ。そんなに死にたいのか?』  「ああ。これは殺されるわ、確実に」  そもそも、さすがにそこまで酷いことをする気もないし、むしろしたくない。  駅へと向かう道。下らないことに知恵を絞りながら、のそのそと歩く。  結局、松井に『了解』と返信をして、届け物を渡すためだけに学校へ行くことにしたのだ。  私達が所属する部活の継続に必要な、大事な書類。  自分では無くしそうだから預かっててくれ、と渡されていた書類。  だから持っていくしかない訳だけれど。  「寒い……やっぱ家で寝てれば良かった」  私の家は海岸沿いにあるため、吹いてくる風も特別冷たく、制服とブレザーという出で立ちではあまりに寒すぎる。  もういっそ海なんか干からびればいい。  そう思いながら海岸を眺めると、どこかの運動部が一列になって走っているのが見えた。  こんな遠くからでもその真剣さが伝わってきて、掛け声まで聞こえてきそうだ。  「おお。青春してるなぁ」  そう呟くと、白い息がほぅ、と洩れた。  「私も走るかー! 少しは温まるだろうし!」  なぜだかそんな気分になった私は、軽く伸びをしてから駆け出し、松井の待つ学校へと急いだ。  定期券を忘れたことに気付き再び家に戻ることになったのは、それから5分後のことである。  
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