お菓子業界の陰謀の活用法について

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   【作戦2】  用意するもの。  百粒程のチロル、1000円。のり巻き、400円。  場面、教室又は部室。  まず、無言でのり巻きを差し出す。  ぽかんとする松井。  『さて問題です。2月の一大イベントと言えば何でしょう』  『は? 何だ急に――』  『そうだね、節分だね』  そう言って背後から大量のチロルを取り出し、ひたすら彼に投げつける。  『鬼は――――外!! 福は――――うち!!』  『痛っ……待て……ちょ……』  地味に痛がる松井。  全て投げ終えたところで、私はびしっと指差し宣言する。  『さあ! 年の数だけ差し上げます!! 適当に拾ってくれ!』  『てめえ、喧嘩売ってんのか』  (これも…………アウトだろうな)  この作戦なら彼のデメリットは少なく、普通にチョコもおいしく食べることができる。  特におまけであるのり巻き丸々1本は、食費を浮かすために度々昼食を抜かす彼にとっては少しは嬉しい筈だと思う。  だが、松井は怒らせると怖い。  彼はあまり冗談が通じないタイプ、特に私の冗談は全く通じないのだ。  ……単純に私の冗談が面白くないだけかもしれないが。  こうやってシミュレーションしただけで、氷のように冷たく睨み付ける彼の姿が、鮮明に目に浮かぶ。  義理チョコバレンタインへの道のりは遠い。  私はふぅ、と溜め息を吐いて別の案を考え始めた。  「…………てめえ、話聞いてねぇだろ?」  松井の静かな声で我に返る。  今日までに提出しなければならないらしいこの書類を作成する手伝いを頼まれた訳で。  しかし彼の記入の指示は私の耳を通り抜け、目の前にある書類は白いまま。  「とんま、てめえ一応俺の補佐だろ? 自分の仕事ぐらいちゃんとやれよ」  ああ。怒ってらっしゃる。  先程想像した通りの、凍てつく視線が私に突き刺さる。  「…………すみませんでした」  自分が提出期限ギリギリまで放っておいたくせに、という言葉を飲み込んで、私は素直に頭を下げた。  ……こいつに怒られるのは、嫌いだ。  
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